元田事務所ニュース 2021年(令和3年) 7月号 TOPIC 1

 契約  副業・兼業の推進、フリーランスの増加等に伴う雇用されない働き方
業務委託契約の活用と注意点
一連の働き方改革関連施策の進展に伴い、働き手の立場の多様化が進んでいます。使用者-雇用者の関係から離れた「業務請負契約」を企業と結んで就労する人も増えてきました。委任契約と請負契約の違い、「労働者性」とは何かなど、使用者側として押さえるべきポイントを整理します。

 政府の働き方改革及び副業・兼業の推進などに伴い、就業のあり方も多様化し、労働者として企業との雇用契約に基づく就業だけではなく、フリーランス(個人事業主)として業務委託で就業する形態も増えています。今年の4月1日から施行されている改正高年齢者雇用安定法では、企業に対して、これまでの60歳定年後65歳までの雇用確保義務に加えて、65歳から70歳までの間も何らかの就業支援措置を講ずる努力義務を定めています。その就業支援措置の一つの選択肢として、65歳から70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入も認めています。
●業務委託契約とは何か
 業務委託とは、会社側からの視点でみれば、雇用関係のない者に特定の業務を委託し、それに対して委託料として報酬を支払う契約形態です。したがって、会社は業務の発注元(委託者)であり、受託者たる企業や個人は発注先です。受託者が個人の場合は雇用関係にはないので、労働基準法や最低賃金の適用もありません。業務遂行または完了に伴う支払いは「賃金」ではなく業務委託料としての「報酬」です。委託者たる会社にとっては健康保険や厚生年金保険といった社会保険料および雇用保険、労災保険といった労働保険料の負担も必要ありません。
 他方、受託者側からみれば、受託者が個人であれば時間や場所の拘束はなく、会社から委託される業務に特化して仕事をすることができ、子育てや介護をしながらのリモートワークなど、各人のライフスタイルに合わせた働き方ができます。委託された業務の完成度や成果、実力が認められれば、より多くの仕事や高収入を見込むこともできます。ただし、仕事の納期などによっては長時間労働に至る場合もあります。
●委任契約と請負契約の違い
 「業務委託」の契約形態には、委任契約と請負契約の2種類があります。委任契約は、委託業務の成果や完成度(結果)にかかわらず、その遂行に対して報酬が支払われる役務提供型の契約です。たとえば、社会保険労務士の顧問契約やシステム運用に伴うヘルプデスク契約などが、委任契約に属します。受託者には「善管注意義務」があり、業務遂行にあたり細心の注意を払うことが求められていますが、成果などは問われません。
 他方、請負契約は、委託された仕事を完成・完了させることを請負うもので、その完成品や納品物、成果物に対して報酬が支払われる業務請負型の契約です。受託者には、委託された物の製造(製品)やシステム開発などを完成させる責任があり、瑕疵があった場合には責任を問われ(瑕疵担保責任)、報酬に影響してきます。会社や個人(士業など)が記帳業務や給与計算業務をアウトソーシングで請負う場合がありますが、これは毎月完成物を納品し、ミスがあれば瑕疵責任を問われることもあります。
 業務委託契約に関する明確な法律的な定義がないこともあり、実態は委任契約および請負契約を明確に区分して運用されていることは少なく、混在しています。しかし、会社の業務の一部を外部に委託するにあたって、委託先が企業であるか個人であるかを問わず、目的を明確にしたうえで、「請負契約」と「委任契約」のどちらを選択するべきかを慎重に検討する必要があります。
●偽装請負を問われないために
 前述のとおり、業務委託の契約に雇用関係は発生せず、労働基準法の適用もありません。したがって、業務委託する側の企業にとって受託者が会社または個人(個人事業主、フリーランスなど)のいずれであっても労働契約関係にはありませんので、業務の進め方に関して指揮命令を行うことはできません。業務の遂行方法は受託者側の裁量によります。
 たとえば、受託先であるシステム運用・保守会社の社員(SEなど)が委託者である会社の社内に常駐する形で業務を行っている場合は、受託者が社内にいるため、指示を出してしまいがちです。委託者である企業側が直接指示を出す場合には、その指示内容によっては指揮監督関係があり、本来的には「雇用関係」が生じていると評価されることにもなります。そのため、労働契約関係にありながらの「偽装請負」とみなされ、法違反を問われることにもなります。偽装請負とは、契約上は「請負」でありながら、実態は「労働者派遣」に該当することです。法を免れる行為とみなされるため労働者派遣法(略称)違反となり、委託側・受託側ともに罰則が科せられることになります。偽装請負に該当するかどうかは、厚生労働省による「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(労働省告示第37号)などを踏まえて実質的に判断されます。社内に業務委託者を常駐させ、直接指示を出しながら業務を進めたいのであれば、業務委託ではなく、労働者派遣法に基づき、派遣会社(派遣元事業主)と労働者派遣契約を締結し、派遣社員の活用としなければなりません。
●労働者性の判断基準
 労働者派遣と請負の区分基準とは別に受託者が個人である場合には労働者性の判断基準にも注意しなければなりません。
 個人の有する特定の専門知識や技術などを活用すべく個人と業務委託契約を締結しているものの、委託者である会社が直接指揮命令をしていると、その実態から雇用契約であると判断されることにもなります。受託者である個人事業主およびフリーランスが労働者とみなされると、労働関係諸法令によって「労働者」として保護されることになります。よくあるトラブルの一つが業務委託契約期間中の契約解除です。業務量が減少したことなどをもって業務委託契約期間中に委託解除された個人事業主やフリーランスが労働者性を理由に解雇であることを主張してくる場合があります。その場合、業務委託契約の報酬などの条件が労働時間に応じたものであることが認められると、その額が労働基準法や最低賃金法が定める基準を下回る場合には、その差額(残業代を含む)を補償する必要があります。さらに、契約時に遡って労働者として、社会保険や雇用保険、労災保険への加入義務が生じることにもなります。
 労働者性の判断基準については、厚生労働省の「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)」(以下、「昭和60年報告」)が出されています。
 それによれば、労働者性(使用従属性)の判断は、①仕事の依頼、業務の指示等に対する諾否の自由の有無、②業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無、③勤務場所・時間についての指定・管理(拘束性)の有無、④労務提供の代替可能性の有無、⑤報酬の労働対償性(仕事の成果・結果ではなく、日数や時間数によるような場合)、⑥事業者性の有無(機械や器具の所有の負担関係、報酬の額など)、⑦専属性の程度(委託先である会社の仕事以外はしないなどの縛り)、⑧公租公課の負担(源泉徴収や社会保険料の控除の有無)の諸要素を総合的に考慮して行われます。
 労働省告示37号および昭和60年報告ともに労働者性の判断基準として特に重視しているのが「直接の指揮命令関係の有無」です。業務委託契約において、業務の内容および遂行方法について「使用者」の具体的な指揮命令を受けていることは、労働者性を判断する重要な要素ですが、業務委託にあたって指示する程度にとどまるものであれば指揮命令とは言えない場合もあります。