元田事務所ニュース 2020年(令和2年) 9月号 TOPIC 1

 法律  副業者をどうケアするか
ダブルワーク労働者の労務管理と労働・社会保険
有力な新ワークスタイルのひとつと位置付けられるダブルワーク。様々な事情を背景に、希望する人も増えています。ここでは労災保険の改正を含めて、各種公的保険制度上の取り扱いについてまとめます。

近年、わが国では副業・兼業(いわゆるダブルワーク)という働き方に注目が集まり、今後もその傾向は続くことが見込まれています。「2017年就業構造基本調査」(総務省)によると、副業を希望している雇用者数は増加傾向にあり、実際に本業も副業も雇用者として働いている人は増加傾向にあります。
 また、厚生労働省も「働き方改革実行計画」を踏まえ、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を示すなどし、副業・兼業の普及促進を図っています。
●副業・兼業者の労災補償
 2020年3月31日に労災保険法の一部を改正する法律が成立しました。その中でダブルワーカーの労災保険給付のあり方について見直しが行われ、2020年9月1日に施行されることになりました。
 兼業・副業により労働者が使用者の異なる複数の事業場で働き、賃金の支払いを受けている場合、通常はその合算した額をもとに生計を立てています。しかし、これまで、業務災害または通勤災害によって被災し療養のため労働不能になった場合や死亡した場合の現金たる保険給付(休業補償給付、傷病補償年金、障害補償年金、遺族補償年金、葬祭料など)に係る給付基礎日額は、発生した災害に関わる事業場から支払われていた賃金をもとに算定されていました。その結果、業務災害または通勤災害による労働不能や死亡により失われる稼得能力は2つの事業場から支払われる賃金の合算分であるにもかかわらず、実際に労災保険から保険給付の対象として、稼得能力の填補がなされるのは被災した1つの事業場において支払われていた賃金に見合う部分に限定されています。たとえば、賃金の高い本業と賃金の低い副業を持つダブルワーカーが副業で業務上または通勤途上で被災し本業・副業の両方で働けなくなった場合でも、副業の賃金のみをもとに保険給付が決定され、喪失した稼得能力と実際に保険給付として支給される額に大きな乖離が生じます。
 そこで、今回の改正では、副業・兼業で複数の事業場で雇用されているダブルワーカーが業務災害または通勤災害を被った場合に関する保険給付については、雇用されているすべての会社から支払われている賃金の合算額をもとに保険給付の額を決定することになりました(図参照)。
●労働時間やストレスの総合評価
 労働基準法では、「事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めています(第38条第1項)。ここでいう「事業場を異にする」とは、「事業主を異にする場合を含む」(昭23.5.14基発第769号)と解されています。したがって、2以上の事業主相互にはまったく資本関係がなく、労働者が自らの判断で複数の就業先を確保し就業する場合でも、第38条は適用されます。
 しかし、労災保険法においてこれまでは、複数の事業場で雇用されている場合でも、精神疾患等に係る労災認定に伴う長時間労働やストレス等については、それぞれの事業場における負荷を個別の事業場ごとに評価し、労災認定できるか否かの判断がなされてきました。
 今回の改正では、雇用されている1つの事業場における仕事のみでの長時間労働やストレスなどの負荷だけで個別に評価しても労災認定できない場合には、雇用されているすべての事業場における仕事での負荷を総合的に評価して、労働災害として認定できるか否かを判断することとなりました(図参照)。
 これらを踏まえれば、兼業・副業をする労働者を雇用する場合には、労働時間管理が重要となってきます。労働基準法上の労働時間管理の義務を負うのは、当該労働者を使用することにより、法定労働時間を超えて労働させるに至った使用者となります。したがって、長時間労働などにより使用者責任を問われないようにするために、ダブルワークとなる労働者との労働契約の締結に当たり、当該労働者が他の事業場で何時間労働しているかを確認しなければなりません。
●雇用保険の取り扱い
 雇用保険の加入基準は、同一事業主の雇用保険の適用事業所において、①1週間の所定労働時間が20時間以上であること、②継続して31日以上の雇用が見込まれる者であることの2つです。したがってこの基準を満たす事業所が雇用保険に加入しなければなりません。なお、ダブルワークで2つの事業所で雇用されている場合、そのいずれの事業所でも雇用保険の加入基準を満たしていることがあります。しかし、雇用保険は2つ同時に加入することはできません。原則として主たる生計を維持する会社(給料の多い方)で加入することとなります。
●社会保険の取り扱い
 社会保険(健康保険・厚生年金保険)については、「1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が、常時雇用者の4分の3以上であること」が加入基準となります。
 なお、2016年10月1日から社会保険の加入対象の範囲が拡大され、上記基準に加えて、下記のすべての条件に該当する場合には社会保険に加入しなければなりません。
①週の労働時間が20時間以上であること
②賃金が月8万8000円(年収106万円)以上であること
③1年以上継続して雇われているまたは見込みがある
④学生以外
⑤社会保険の対象となる従業員規模が501人(厚生年金の被保険者数で判断)以上の事業所に勤務していること(2017年4月からは従業員500人以下の事業所であっても労使で合意があれば加入可能)
 なお、雇用保険と異なり、ダブルワークに伴い、2ヵ所以上の事業所で健康保険・厚生年金保険の加入要件を満たした場合には、それぞれの事業所において被保険者としての加入手続きをする必要があります。その際、被保険者本人に「健康保険・厚生年金保険被保険者 所属選択・二以上事業所勤務届」を届け出てもらうことで、どちらの事業所で保険関係の手続きをするのか、どちらの保険者で保険証を発行するのかを決定します(選択・非選択事業所の記入)。選択事業所とされた事業所では、今後、この被保険者に関わる事務を行うことになります。
 保険料は、両方の事業所から得た収入をもとに被保険者の標準報酬月額が決定されます。両事業所は、それぞれの給与額に応じた保険料を負担することになります。両事業所の具体的な保険料負担については、「健康保険・厚生年金保険被保険者 所属選択・二以上事業所勤務届」の提出後、年金事務所が算定したそれぞれの保険料額が通知される、この通知に従って天引きをしていくことになります。