元田事務所ニュース 2020年(令和2年) 8月号 TOPIC 1

 法律  公的年金制度の改正
短時間労働者の厚生年金の適用拡大、75歳までの繰り下げ受給等公的年金の改正とその影響
公的年金制度改正の関連法案が国会で可決されました。これにより適用範囲や受給年齢の選択範囲、在職老齢年金の見直しなど、さまざまな制度改正が行われます。

2020年5月29日、第201回通常国会において、「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が成立し、6月5日に公布されました。
 今回の年金制度改正の大きなポイントは、①短時間労働者への適用拡大、②年金の繰り下げ受給年齢の選択範囲の拡充、③在職老齢年金の見直しです。その他には、確定拠出年金(iDeCo)の加入要件の見直しなどもありますが、今回は①②③についてまとめることとします。
被用者保険(厚生年金保険、健康保険)の適用拡大(施行:2022年10月、2024年10月)
 厚生年金保険は、その適用事業所に常時使用される70歳未満で、1週間の所定労働時間および1ヵ月の所定労働日数が同じ事業所で働く正社員の4分の3以上である者は、法律上、強制被保険者となります。
 ただし、この基準を満たさないパート等の短時間労働者であっても、厚生年金保険の被保険者数が常時501人以上の適用事業所に使用される者で、①1週間の所定労働時間が20時間以上であること、②1年以上の雇用期間が見込まれること、③賃金月額が8万8000円以上(残業代や一時金などは含まない)であることの3つの条件を満たす者(学生を除く)は被保険者となります。
 今回の改正では、パート等の短時間労働者であっても被保険者となる適用事業所の規模要件が見直され、2022年10月1日からは被保険者数が常時100人を超える事業所、2024年10月1日からは常時50人を超える事業所へと拡大されることになりました。また、雇用期間についても、前述②の「1年以上の雇用見込み」から「2ヵ月超の雇用見込み」に短縮されます。なお、①の労働時間要件および③の賃金要件は現行のままです。
 厚生年金保険および健康保険、介護保険の保険料は事業主と被保険者の折半負担です。今回の改正による適用拡大でパート等の短時間労働者を雇用する中小事業主にとっては、さらに保険料の負担が増えることになります。
 また、これまで厚生年金の強制適用事業所となるのは、法人経営の事業所と、個人経営でも従業員が常時5人以上いる事業所(農林漁業やサービス業等を除く)でしたが、新たに、弁護士、公認会計士、税理士、社会保険労務士等の士業事務所で常時従業員を5人以上使用している場合は適用事務所となります。
年金の繰り下げ受給開始年齢の選択肢の拡充(施行:2022年4月1日)
 現在、60歳台前半で支給される特別支給老齢厚生年金は別として、老齢厚生年金および老齢基礎年金は、原則として、65歳からの支給です。ただし、特例的に60歳からの繰り上げ支給と66歳からの繰り下げ支給を選択することができることになっています。このうち、繰り下げ支給は70歳までとなっていますが、改正により上限が75歳まで拡大されることになりました。
 繰り下げ支給を選択した場合には、年金額が増額され、繰り下げ1月あたり、プラス0.7%。繰り下げ上限年齢75歳から支給を受けるとすると65歳から支給を受けるのと比べ、最大の84%の年金増となります。この改正は、2022年4月1日以降に70歳に到達する人(1952年4月2日以降に生まれた人)が対象となります。
 労働力人口が減少する中で、高年齢者の就業期間の長期化が進むことを考慮すれば、支給開始年齢上限の引き上げにより75歳から84%増額された老齢年金を受給できることは、老後の安心にもつながります。とはいえ、75歳から支給を受け始めた場合の年金受給総額が70歳から年金の支給を受けた場合の年金受給総額を上回るのは、概ね91歳以上まで長生きした場合となります。
在職老齢年金の見直し(施行: 2022年4月)
 60歳以上で老齢厚生年金の支給を受けることのできる権利を取得した人が、厚生年金保険の適用事業所に就業し厚生年金保険に加入した場合、老齢厚生年金の月額が給料や賞与の額(総報酬月額)に応じて調整され、老齢年金の一部または全額が支給停止となる場合があります。これを在職老齢年金といいます。在職老齢年金には、「60歳台前半(60~64歳)の在職老齢年金」と「65歳以上の在職老齢年金」があり、調整の仕組みが異なります。
 現在、60~64歳に支給される特別支給の老齢厚生年金は、支給停止基準が月額28万円となっています。これが47万円に引き上げられます。現在、65歳以上の在職老齢年金は、年金月額と総報酬月額の合計が47万を超えた場合に支給調整されますので、この基準と同じになったことになります。
 したがって、60歳台前半の老齢厚生年金も改正後は年金月額と総報酬月額の合計が47万円になるまでは年金が全額支給されることになります。これにより、現在、60歳台前半の在職者は、年金支給停止を避けるために年金月額と報酬月額の合計で28万円未満となるような就業調整をする必要がなくなり、就労時間や就労日数を増やすこともできるようになります。とは言っても、男性は2025年度、女性は2030年度以降、60歳台前半の特別支給の老齢厚生年金の支給はありません。したがって今回の改正の影響を受けるのは、男性では1957年4月2日~1961年4月1日生まれの人、女性では1957年4月2日~1966年4月1日生まれの人のみと極めて限定的です。
 また、これまでは、65歳以上の在職老齢年金については、退職等により厚生年金被保険者の資格を喪失するまでは、年金額は改定されませんでした(退職時改定という)。しかし、今回の改正により、1年に1回(毎年10月)加入期間を年金額に反映して改定することになりました(在職時改定)。これにより、65歳を過ぎても就労を継続したことの効果が退職を待たずに早期に年金額に反映されます。これにより、年金を受給しながら働く受給権者の経済基盤の充実が図られることになりました。