元田事務所ニュース 2020年(令和2年) 1月号 TOPIC 1

 判例  同一労働同一賃金の導入検討
定年後の再雇用者の処遇をめぐる対応上の留意点
定年後の65歳までの雇用確保は法律によって義務付けられています。
しかし、今後、同一労働同一賃金を踏まえると再雇用者の処遇について再検討しなければなりません。
判例を通して、再雇用後の賃金の問題を見ていきます。

定年後の雇用確保措置の現状
 高年齢者雇用安定法(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)では65歳までの安定した雇用を確保するため、企業規模を問わず、65歳未満の定年年齢を定めている企業に対して、①定年年齢の引き上げ、②定年後の継続雇用制度(勤務延長制度または再雇用制度)の導入、③定年年齢の廃止、のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講ずることを義務付けています。
 厚生労働省の「令和元年高年齢者の雇用状況」によれば、①~③いずれかの措置により定年後65歳まで雇用する企業数割合は99.8%に到達しています。中でも、継続雇用制度の導入による雇用確保措置が約8割(77.9%)となっています。
 また、「平成29年の就業条件総合調査」によれば、定年後の継続雇用制度を定めている企業について、その内訳をみると、再雇用制度のみとするのは72.2%と最も多く、次いで勤務延長制度と再雇用制度の併用が11.8%、勤務延長制度のみが9.0%となっています。最も割合の高い再雇用制度の多くは定年後1年単位の有期雇用契約を更新して65歳まで継続雇用するものです。

再雇用者の勤務形態
 定年後の再雇用は、これまでと同様に通常勤務であるものの、定年と同時に役職が解かれるなど仕事に対する責任や仕事の内容が軽減されるのが一般的です。雇用形態は多様化され、また、再雇用に伴い勤務日数を減らしたり、短時間勤務を選択するコースを設ける場合もあります。高年齢者雇用安定法では、定年後の65歳までの継続雇用を義務づけてはいますが、必ずしも仕事内容や勤務形態に関しては定めていません。したがって、会社によっては、定年時の職位や職能等級などによって、本人の希望なども勘案しつつ、「嘱託社員」「シニア又はエルダー社員」として仕事の内容や勤務形態を制限して働き方を選択できるような制度を設けていることも多くあります。

定年後再雇用者の賃金
 働き方改革関連法の柱の一つに同一労働同一賃金があります。同一労働同一賃金とは、正社員と非正規社員との賃金を含む処遇格差の是正を求めるものです。仕事の内容や仕事に対する責任の重さなどが同じであれば、正規雇用労働者であるか、非正規雇用労働者であるかを問わず、同一の賃金を支払うべきであるというものです。この同一労働同一賃金を含む「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パートタイム・有期雇用労働法)は、2020年4月1日(中小企業:2021年4月1日)から施行されることになっており、各企業においてはそれまでに非正規雇用労働者の処遇に関する対応を検討・準備しなければなりません。
 なお、同一労働同一賃金に関して、2018年12月28日に「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(同一労働同一賃金ガイドライン(指針))が公布・告示されています。
 前述の通り、定年後の継続雇用の多くは再雇用者であり、65歳までを限度に1年を雇用期間の単位として更新する有期雇用労働者です。
 指針では、定年に達した後に継続雇用された有期雇用労働者の取り扱いに関して、「定年に達した後に継続雇用された有期雇用労働者についても、短時間・有期雇用労働法の適用を受けるものである」としています。したがって、正社員と定年後に継続雇用された有期雇用労働者との賃金の相違(格差)については、両者の間に①職務内容、②職務内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情の違いがある場合には、その相違に応じた賃金の格差は許容されるものの、①~③に照らして行き過ぎた格差は認められないことになります(パートタイム・有期雇用労働法第8条、第9条参照)。

判例から読み取れること
 再雇用者の賃金を検討する際に一つの判断材料となる裁判例に「長澤運輸事件」(平成30年6月1日最高裁判決)があります。
 この事件は、定年退職後に有期労働契約で嘱託乗務員として再雇用されたトラック運転手3名が、定年前と同し業務に従事しているにもかかわらず、定年前と再雇用後で賃金総額が2割以上減額されたことは正社員との処遇格差につき労働契約法第20条に反し、不当であるとして訴えたものです。これに対して最高裁は、①業務内容(運送業務)、②責任の程度(職務内容)、③配置の変更の範囲についていずれも正社員と同一であるが、④定年退職後再雇用という特殊事情のある有期雇用契約の嘱託社員について、個別の労働条件(賃金を構成する各種手当)に限りその相違は不合理であると判断しました。
 判決によれば、まず「事業主は、高年齢者雇用安定法により、60歳を超えた高年齢者の雇用確保措置を義務付けられており、定年退職した高年齢者の継続雇用に伴う賃金コストの無制限な増大を回避する必要があること等を考慮すると、定年退職後の継続雇用における賃金を定年退職時より引き下げること自体が不合理であるとはいえない」としています。さらに「定年退職後の継続雇用において職務内容やその変更の範囲等が変わらないまま相当程度賃金を引き下げることは広く行われており、被上告人が嘱託乗務員について正社員との賃金の差額を縮める努力をしたこと等からすれば、上告人らの賃金が定年退職前より2割前後減額されたことをもって直ちに不合理であるとはいえず、嘱託乗務員と正社員との賃金に関する労働条件の相違が労働契約法第20条に違反するということはできない」としています。
 この判決によれば、定年後有期雇用契約で定年前と仕事の内容が同一であっても、社会通念に照らし合わせて容認されないほどの大幅な賃金の低下は認められないものの、企業努力をしたうえでの一定の差を設ける場合に2割前後の減額は認められる可能性は高いことがわかります。また、管理職にある者が再雇用されて職位が解かれる場合などは、役職手当相当額が減額されることには合理性があります。
 この事件では、賃金を構成する諸手当についても個別に判断され、「有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するにあたっては、両者の賃金の総額を比較することのみではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと考えるのが相当である」としています。そして、諸手当のうち、精勤手当に関しては、正社員と職務内容が同一である以上、両者間でその皆勤を奨励する必要性に相違はないとして、再雇用の嘱託社員に対しても支払うべきであるとしました。
 再雇用者の賃金に関しては、今後も新たな裁判例等か出てくることが予測されます。それらを踏まえて新たな対応が必要になることも想定されますが、深刻な人手不足のなかで定年後の再雇用者の活躍は期待されるところでもあり、年齢にとらわれない適正な処遇を検討して人材を確保することも必要です。