元田事務所ニュース 2019年(令和元年) 10月号 TOPIC 1

 判例  退職金や賞与の支払いにも関係します
最近の判例にみる同一労働同一賃金の流れ
働き方改革の考え方の大きな柱のひとつである同一労働同一賃金をめぐり、様々な判例が示されています。
最近のものから、留意すべき点を検討します。

 働き方改革関連法の大きな柱の一つが「同一労働同一賃金」です。同一労働同一賃金とは、同一企業内での正社員と非正社員の職務や仕事の内容が同じであれば、同じ賃金を支払うべき(均等待遇)とするもの、および職務や仕事の内容が違う場合には、その違いに応じてバランスのとれた賃金を支払うべき(均衡待遇)とするものです。
 具体的に比較の対象となるものは基本給、賞与、諸手当、退職金といった賃金に関する労働条件だけではなく、社宅・食堂などの施設の利用から福利厚生などのあらゆる処遇が対象となります。
 たとえば、契約社員やパート労働者、定年後の再雇用者などの非正社員が正社員と同じ仕事をしているにもかかわらず給与に著しい格差があったり、賞与や住宅手当などの諸手当について正社員には支給されるが非正社員には支給されなかったりといったことなどがあげられます。これらの処遇格差について会社として合理的な説明ができない場合は訴えられることにもなります。
 法律の施行は、大企業が2020年4月、中小企業が2021年4月となっています。しかし、既にいくつかの最高裁判例も出ています。その代表的なものが、同じトラック運転手に関する処遇格差をめぐり、①正社員と非正社員の間の手当の格差を争ったハマキョウレックス事件および、②正社員と定年後再雇用者の間の賃金格差を争った長澤運輸事件の2つです。ハマキョウレックス事件では、正社員に支払われている住宅手当、皆勤手当、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当のうち、住宅手当を除いた他の手当を非正社員に支給しないのは違法と判断され損害賠償請求が認められました。また、長澤運輸事件では、正社員に支払っている精勤手当(皆勤手当)を定年後再雇用者に支給しないのは違法とされました。
 この2つの判決が出て以降もいくつかの新たな裁判例が出ており、ここではその中でも特に注目すべき2つの事件の概要を紹介し、同一労働同一賃金への対応を検討します。

判例1
契約社員にも退職金の支払い
(メトロコマース事件/東京高裁H31.02.20)
 この事件は、地下鉄駅構内の売店で販売業務に従事してきた有期契約社員(フルタイム勤務)らが、同一内容の業務に従事しているにもかかわらず、無期労働契約の正社員と比較して、本給、資格手当、住宅手当、賞与、退職金、永年勤続褒賞金、早出残業手当の割増率に差異があることは、労働契約法20条に違反しかつ公序良俗に反すると主張して、不法行為または債務不履行に基づき、差額賃金相当額、慰謝料などの支払いを求めたものです。
 高裁は、まず労働条件に差がある比較対象となる正社員の範囲を販売店で販売業務に従事している者に限定しました。そのうえで、次の処遇格差は不合理であると判断しました。
 ①住宅手当…生活費を補助する趣旨で支給されるものと解するのが相当であり、生活費補助の必要性は職務の内容等によって差異が生ずるものではない。また、転居を伴う配置転換は正社員にも想定されていない。よって、契約社員と比較して正社員の住宅費が多額になりうるといった事情もないことから支給すべきものである。
 ②退職金…契約社員の有期労働契約は原則として更新され、定年が65歳と定められており、一部の契約社員は10年前後の長期間にわたって勤務している。少なくとも長年の勤務に対する功労恩賞の性格を有する部分に係る退職金すら一切支給しないことについては不合理である。
 その結果、正社員の4分の1相当の退職金の支払いを命じました。退職金制度の適用について有期契約労働者を支給対象としないこと自体不合理とまではいえないとしつつ、長期間勤務している有期雇用労働者に対して功労恩賞的性格に係る部分まで支払わない点については不合理であるとした点については注目すべき判決です。
 正社員にのみ退職金を支給するとしている企業は珍しくはありませんが、そうした会社は今後退職金制度のあり方を検討する必要性がありそうです。
 ③永年勤続の褒賞金…業務の内容にかかわらず、勤続10年の正社員には一律に表彰状と3万円が贈られている。契約社員も原則、契約は更新され定年が65歳と定められており、長期間継続することが少なくないことから、契約社員不支給は不合理である。
 そのほか、残業に伴う割増賃金の割増率の差異についても不合理であるとして、差額の支払いが命じられました。

判例2
アルバイトへの賞与なしは違法
(大阪医科薬科大学事件/大阪高裁H31.2.15)
 この事件は、大阪医科大学(現・大阪医科薬科大学)で研究室の秘書としてフルタイム勤務の元アルバイト女性職員が、正職員と有期契約のアルバイト職員との処遇格差(基本賃金が同じ経験年数の正職員と比較して55%程度であること、賞与が支払われないことなど)は、労働契約法第20条に違反するとして、賞与の支払いを求めたものです。賞与については、正職員には年2回、通年で4.6ヶ月分、契約社員には、正職員の8割相当額が支給されていました。しかし、アルバイト職員には、賞与は支給されていませんでした。
 高裁は、正職員に年2回支給している賞与は、正職員全員を対象とし、基本給のみに連動するもので、年齢、勤務成績に連動するものではなく、業績に連動するものでもないこと。また賞与は、その算定期間に就労していたこと自体に対する対価としての性質を有し、そこには賞与算定期間における一律の功労の趣旨も含まれるとみるのが相当である以上、とりわけフルタイムのアルバイト職員に対し、賞与を全く支給しないことは不合理であるとして支払いを命じました。もっとも、賞与には、功労、付随的にせよ長期就労への誘因という趣旨が含まれ、使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難いこと。さらに、正職員とアルバイト職員とでは、実際の職務も採用に際し求められる能力にも相当の差違があり、アルバイト職員の賞与算定期間における功労も相対的に低いことは否めないこと。これらのことからすれば、正職員のうち平成25年4月に採用された者と比較し、その者の賞与の支給基準の60%を下回る支給しかしない場合は不合理になる。との判断がなされました。
 また、この事件では、私傷病による欠勤時に補償される賃金についても争われ、契約を更新して一定期間継続就労し、一定の貢献をしているフルタイム勤務のアルバイト職員に対して、私傷病による欠勤中の賃金補償が全くないことは正職員と比して不合理であると判断され、一部請求が認容されました。