元田事務所ニュース 2019年(令和元年) 9月号 TOPIC 1

 法律  トラブルや処分に見舞われないために
労務リスクを洗い出し
労務コンプライアンス体制を再整備する
働き方改革関連法の施行など労務分野の法規制に顕著な変化がみられる今こそ、
コンプライアンス体制の再整備が必要です。
どのような手順で進めていけばよいのでしょうか?

 働き方改革関連法の施行や毎年のブラック企業大賞の公表などい会社の労務コンプライアンスがこれまで以上に重視される時代となっています。また、人手不足に対応するために、企業によっては求人に優位な厚生労働省認定のホワイトマーク(安全衛生優良企業)、くるみん・プラチナくるみん(子育てサポート企業)、えるぼし(女性活躍推進企業)などのマークを取得するために社内労務管理体制をコンプライアンス面から再構築するところも増えています。

労務コンプライアンス軽視のリスク
 企業活動におけるコンプライアンスとは、法を守り、社会的規範に反することなく事業を行うことをいいますが、その中で労務管理分野に関するものが「労務コンプライアンス」です。
 たとえば、長時間労働や残業代未払い問題い、ハラスメントなどは、労働者の心身を疲弊させ、労使の信頼関係を損ねることになり、ひいては離職率を高めることになります。優秀な人材ほど退職することにもなります。さらには、労働基準監督署などの行政調査が入ると行政処分リスクを負うことにもなります。
 また、人手不足の中で、労働者の能力や人柄を判断することなく人数の確保を優先するあまり、問題のある労働者を採用した結果、権利主張により会社のコンプライアンスの不備を原因として労務トラブルに発展し、訴訟に至ることもあります。そうなると解決するまで多くの時間と費用がかかることになります。
 また、行政処分や訴訟に至らないまでも、最近は退職した元社員や在職中の社員の匿名による発信により、SNSなどネット上のサイ卜に会社の労務面のネガティブ情報が掲載されることもあります。その結果、求人したが応募者が集まらないということにもなりかねません。
 したがって、自社の働き方改革の一環として、再度、労務コンプライアンスを重視した労務管理体制の問題点を洗い出し、改善・整備することが必要です。

問題点の洗い出し
 労務管理面の問題点やそれによって生じ得るリスクを洗い出すには、労働法や労働・社会保険諸法令に関する専門的知識が必要となります。洗い出しの手法としては、労務コンプライアンス監査または労務監査といわれるものがあります。上場会社とその関連会社は内部統制の一環としてこの労務コンプライアンス監査を実施しているところもあります。また、この分野に精通しているのは社会保険労務士ですので、業務委託するのも方法の一つです。
 問題点の洗い出し方にはいろいろな方法がありますが、①就業規則など人事労務関連の諸規則の整備状況と適法性および運用実態の確認、②労使協定など労働関係法令の書類および法定帳簿の整備状況と適法性の確認、③労働・社会保険関係の諸手続書類の整備状況と適法性の確認は必須です。
 監査の視点でみれば、①は規則監査です。たとえば、就業規則の内容に違法性はないか、労働関係諸法令の改正を踏まえた規定の改定がなされているか、規定漏れはないかなどを確認するものです。
 ②・③は書類監査です。②は就業規則および労働の実態に合わせた労使協定が締結されているか、賃金台帳や労働者名簿など法定帳簿の有無および帳簿の法定記載項目は記載されているか、労働契約書に必要記載事項が記載されているかなどです。 2019年4月以降は年次有給休暇5日の取得義務化に伴い、年次有給休暇管理簿の作成義務がありますので注意しなければなりません。
 ③は労働保険や社会保険の諸手続処理が適法に行われているかです。たとえば、雇用保険や社会保険の加入基準を満たしているにもかかわらず加入漏れとなっている、または加入させていないなどがあります。社会保険労務士事務所に事務処理を委託している場合であっても、連絡漏れなどがあれば違法な状態のままとなっていることもあります。また、賃金台帳から控除している社会保険料が支払っている賃金額と合っていないこともあります。

運用実態の問題点
 労務リスクとして最大のリスクは運用実態にあります。人事労務関連の諸規則は適法に定められていても、労務管理面の実態が規則の規定内容と違っていたり、運用面に問題があるケースが多くあります。たとえば、残業代の未払いです。固定残業代を規定しているものの固定残業時間数を超える残業には残業代を支払っていないとか、住宅手当を定額で支払っていながら残業代の基礎額に算入していないなどがあります。また、定期健康診断の実施および受診義務を定めていながら、業務多忙を理由に受診していない労働者が放置されていたりすることもあります。このほか、受診対象者を正社員に限定し、就労実態に照らして受診義務のあるパート労働者や契約社員には受診させていない場合などもあります。
 労務関係の書類面においては、所得税や社会保険料といった法定控除以外の控除(社員親睦会の会費など)がありながら控除協定を結んでいないとか、36協定(時間外・休日労働に関する協定)は締結しているが、特別条項協定を結ぶことなく、36協定を超える残業をさせていたりすることがあります。
 有期雇用契約を締結していながら更新手続が適法に行われていなかったために、期間満了で雇用関係を終了しようとしたときに「雇止め」をめぐり紛争に至ることもあります。
 労働・社会保険関係の手続き面においては、試用期間中は雇用保険や社会保険に加入させず、雇入れ日と被保険者資格取得日が合っていないこともあります。退職後の失業手当や将来の年金の受給額に影響することもあり、先々トラブルに発展したり、行政調査で発覚して遡って被保険者負担分の保険料も会社が負担して支払わなければならない事態に至ることもあります。
 今日、労働関係諸法令の改正はめまぐるしく、定期的に自社の労務コンプライアンス体制をチェックしておかなければ、事の大小を問わず労務リスクを抱えることになります。