元田事務所ニュース 2017年3月号 6面 労務管理

トラブル回避の対応術
懲戒での降格によって賃金を下げることはできるか?

 当社の賃金制度では、格付け等級に応じて基本給が決まるしくみを取り入れています。
 現在、社内でトラブルを引き起こした社員の懲戒事案があり、現等級での能力不足や職責が果たされていないこともあるので、今回の処分としては降格を検討しています。それに伴い基本給も1割以上引き下げることになりますが、法律上問題はあるのでしょうか?

減給の制裁
 労働基準法(第91条)では、職場規律違反などの制裁(懲戒)による賃金の減額について、「減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」として、減額に対する規制が設けられています。
 一般的に、減給は対象となった労働者が実際に就労している場合に労務の対償として支払われる賃金に対して行われる制裁措置とされています。
 一方、賃金には全額払いの原則(労基法第24条1項)がありますので、制裁とはいえ労務の対償として労働者が得られる賃金を減額することに対しては厳格な規制があるわけです。

降格に伴う減額
 制裁の処分を行う場合は、就業規則に制裁事由と処分の内容が明記されていて、その定めに基づいていることが前提となります。今回のケースのように、降格により賃金(基本給)が減額となる場合も考えられますが、労基法上の減給の規制に違反するかどうかについて、賃金制度で降格により賃金が変更になることが明確となっているかどうかが、判断のポイントとなります。
 職能等級などにより基本給表を定めていたり、社内の格付けや職務・職制に連動した金額の手当を支給している場合、能力不足や職責を果たしていないなどの理由でその格付けとしては不適格であるという判断での降格であれば、使用者は人事権を行使したことになります。
 したがって、降格に伴う賃金(基本給や手当)の低下は、その労働者の職務や職能等級の変更に伴う当然の結果であるので、制裁規制に違反するものではないとされています。つまり、この場合は賃金の「減額」ではなく、「変更」にすぎないことになります。

懲戒の権利濫用
 一方で、労働契約法(第15条)では、使用者が労働者を懲戒(制裁)することができる場合において、「労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」としています。
 このことから、人事権の行使としてではなく、懲戒処分としての降格であれば、労働契約法の懲戒権の濫用法理により規制の対象となります。したがって、権利の濫用だと認められれば、降格自体が無効となることも考えられます。