無期転換ルールが適用されない特例 2015年9月号


1面 表紙
《無期転換ルールが適用されない特例》 
   特別措置法施行後の3ヵ月間に585件の認定が行われ、今後も増加する見込み
《厚生年金保険料率》 
   9月分(10月納付分)から厚生年金保険料率が0.354%引き上げ

2面 ニュース
《地域別最低賃金額改定の目安を提示》
   平成27年度の地域別最低賃金の全国加重平均が18円となり昨年度より2円増
《「過労死等の防止のための対策に関する大綱」が閣議決定》
   過労死ゼロへ向け国の取組みを定めるとともに事業主の具体的取組みを決定
《雇用継続給付等の支給限度額を引上げ》
   高年齢雇用継続給付、育児休業給付、介護休業給付について、支給限度額が変更

3面 安全・労働衛生
《健康配慮義務》
   使用者の労働契約上の義務とされる健康配慮義務の具体的内容について解説

4面~5面 参考資料
《「人並みに働けば十分」、過去最高に》
   公益財団法人日本生産性本部発表の新入社員を対象とした「働くことの意識」調査結果の概要
    就労意識のランキング 1位~16位(表)

6面 労務管理
《トラブル回避の対応術》
   退職勧奨で注意するべきことは?

7面 社会保険
《社会保険の実務サポート》
   マイナンバーの利用範囲等

8面 参考資料
《平成26年度雇用均等基本調査(確報版)》
   厚生労働省発表による「企業調査」と「事業所調査」の結果概要
    育児休業取得率の推移(グラフ)


 有期労働契約が繰り返し更新されて通算5 年を超えた場合、労働者の申込みにより、期 間の定めがない労働契約に転換するルール(無 期転換ルール)について、今年4月に施行さ れた特別措置法の規定に基づき、無期転換ル ールが適用されない特例の認定が、全国の都 道府県労働局で、4月1日から6月30日まで の間に585件行われたことが分かりました。  都道府県別で認定件数が最も多かったのは 東京労働局の145件で、次いで静岡(79件)、 大阪(63件)、愛知(55件)となっています。 月別では4月が116件、5月が202件、6月 が267件となっており、今後も増加すると見 込まれています。  無期転換ルールの特例の対象となるのは、 ①「5年を超える一定の期間内に完了するこ  とが予定されている業務」に就く高度専門  的知識等を有する有期雇用労働者 ②定年後に有期契約で継続雇用される高齢者 ですが、この特例を受けるためには、都道府 県労働局長の認定を受ける必要があります。  具体的には、特例の適用を希望する事業主 は、特例の対象労働者に関して、能力が有効に 発揮されるような「雇用管理に関する措置」(注) についての計画を作成し、本社・本店を管轄 する都道府県労働局に提出します。都道府県 労働局は審査の上、事業主から申請された計 画が適切であれば、認定を行うことになって います。  また、事業主は認定を受けた場合、有期労 働契約の締結・更新の際に、無期転換ルール に関する特例が適用されていることを対象労 働者に明示する必要があります。 (注)は次ページを参照のこと  今年9月分(10月納付分)からの厚生 年金保険料率が0.354%引き上げられ、 17.828%(一般の被保険者)となります。 事業主負担分および被保険者負担分は、 この半分の8.914%です。 なお、厚生年金基金に加入する方の厚生 年金保険料率は、基金ごとに異なります。


前ぺ-ジの(注)雇用管理に関する措置 (①の対象者の場合の措置内容の例  ○教育訓練を受けるための有給休暇また   は長期休暇の付与  ○始業及び終業時刻の変更  ○勤務時間の短縮 (②の対象者の場合の措置内容の例  ○作業施設・方法の改善  ○健康管理、安全衛生の配慮  ○職域の拡大  ○勤務時間制度の弾力化  平成27年度の地域別最低賃金額改定に ついて、中央最低賃金審議会は7月30日、 引上げ額の目安を示す答申を取りまとめま した。  各都道府県をA~Dの4つのランクに区 分けし、地域別最低賃金の引上げ額の目安 は、Aランク19円、Bランク18円、Cラ ンクDランクは司額の16円が示されて います。これにより、全国加重 平均は18円となり、昨年度(16 円)より引上げ額が2円増えて います。  東京など主に都市部のAラ ンクとC・Dランクの差額は、 昨年度の6円から3円に縮まり、 都市部と地方との格差にも配 慮した結果となりました。  今後は、各地方最低賃金審議 会でこの答申を参考に審議が 行われ、各都道府県労働局長が  最終的な改定額と発効日を決定することに  なっています。  政府は7月24日、「過労死等の防止のため の対策に関する大綱」を閣議決定しました。  同大綱では、国の関係行政機関が緊密に 連携して、(1)調査研究等、(2)啓発、(3)相 談体制の整備等、(4)民間団体の活動に対 する支援の4つの重点対策を効果的に推進 するため、今後おおむね3年間での取組み について定めています。  一方、事業主が過労死等の防止に取り組 む重点対策として、国が行う対策に協力す るとともに、労働者を雇用する者として責 任をもって対策に取り組むよう努めること を明記。産業医や衛生管理者などの産業保 健スタッフの専門的な知識や意見の活用、 産業医がいない規模の事業場では、各都道 府県に設置されている産業保健総合支援セ ンターを活用した体制の整備を図るよう努 めることなどを定めています。 8月1日から、雇用保険が引き上げられ たことに伴い、高年齢雇用継続給付など の支給限度額も変更されています。詳細は次の とおりです。


 使用者の労働契約上の義務として、安全配慮 義務のあることが労働契約法第5条に規定され ています。今回は、この安全配慮義務の内容とし て健康配慮義務があり、その具体的内容がどの ようなものであるかを見ていきたいと思います。  過労自殺の事件で損害賠償請求を認めた電通 事件の最高裁判決(最判平12.3.24)は、「使用 者は、その雇用する労働者に従事させる業務を 定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴 う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者 の心身の健康を損なわないように注意する義務」 があると判断しています。  これは、安全配慮義務の内容として、「労働 者の心身の健康を損なわないように注意する義 務」(健康配慮義務)が使用者にはあることを 判断したものと言えます。  健康配慮義務の具体的内容を確定するにあた つて影響するのが労働安全衛生法、同規則、こ れらに基づく指針と言えます。  電通事件の最高裁判決が判断に至る根拠の一 つとして指摘したのが、「事業者は、労働者の 健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切 に管理するように努めなければならない。」と 規定する労働安全衛生法第65条の3です。  労働安全衛生法第66条の8に基づく医師に よる面接指導やその結果による「適切な措置」、 同法第66条の9による「健康への配慮が必要 なもの」についての「必要な措置」も健康配慮 義務を構成する要素となります。  安全配慮義務の具体的内容については、「労 働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配 慮義務が問題となる当該具体的状況等によって、 異なるべきものである」(川義事件最高裁判決 昭59.4.10)とされていますが、健康配慮義務 の具体的内容についてもこの考え方によります。  これまでの裁判例からすると、労働者の精神 疾患との関係における使用者の健康配慮義務の 内容には、次のようなものが考えられます。 ①労働者の業務の実情、職場の状況、業務の負  担の状況を把握すべき義務  山田製作所事件(福岡高判平19.10.25)、ア  テスト・ニコン事件(東京高判平21.7.28) ②労働者が過重労働の結果精神疾患に雁患しな  いように、労働時間、労働密度を適正に設定  する義務  電通事件、オタフクソース事件(広島地判平  12.5.18) ③いじめなどの加害行為を防止し、生命、身体  等への危険から労働者の安全を確保して被害  発生を防止すべき義務  川崎市水道局事件(東京高判平15.3.25)、昇  誠会北本共済病院事件(さいたま地判平16.9.24)  健康配慮義務を考慮して「健康職場」を形成  していくことを、全国労働衛生週間の準備期間  中(9月1日~30日)に考えてみてはいかがで  しょうか。


 このほど公益財団法人 日本生産性本部 は、平成27年度の新入社員を対象に実施 した「働くことの意識」調査結果を発表し ました。  それによると、「人並み以上に働きたい か」という問いに対し、「人並みで十分」 という回答が53.5%と過去最高になり、 就職状況の好転にともなって、“ほどほ ど’に頑張るという志向が強まっているよ うです。  その年の新入社員の就職活動が順調だった かで敏感に変化する項目に、「人並み以上に 働きたいか」がある。  景況感や就職活動の厳しさによって、「人 並み以上」と「人並みで十分」が相反した動 きを見せる。特にバブル経済末期の平成2~ 3年度には、「人並み以上」が大きく減り、 「人並みで十分」が大きく増えたが、その後 の景気低迷にともない平成12年度以降入れ 替わりを繰り返している。  ここ数年では、平成24年度に厳しい就職 状況を背景に「人並み以上」が「人並みで十 分」を逆転したが、平成25、26年度そして 今年度と「人並み以上」が減少(42.7%→ 40.1%→38.8%)するとともに、「人並みで 十分」が増加(49.1%→52.5%→53.5%) して過去最高。会社に大きく貢献したいとい う意欲よりも、“ほどほど”に頑張るという志 向が見受けられる。  一方で、「仕事中心か(私)生活中心か」と  いう質問では、常に「両立」という回答が多  数を占め、今年度は81.1%であった。 「どのポストまで昇進したいか」という質 問に対して、最も多かったのは「専門職(ス ペシャリスト)」(20.4%)で例年通りだった が、その割合は過去最低を更新した昨年度 (19.9%)とほぼ同水準である。 10年前と比べ、男性では社長という回答は 大きく減り(27.0%一17.4%)、部長と課長 が増加(13.7%→20.2%と3.2%→6.4%)。 一方、女性では専門職志向が低下し(34.1% →27.2%)、その分、部長と課長という回答 が増加し(7.2%→10.5%と4.6%→6.4%)、 部長という回答が初めて2桁になるなど、女 性の昇進志向がやや高まっている傾向が見受 けられる。 「デートの約束があった時、残業を命じら れたら、あなたはどうしますか」という質問 に対しては、「デートをやめて仕事をする」 (80.8%)、「ことわってデートをする」 (19.0%)と、全体としてはプライべ-トな 生活よりも仕事を優先する傾向が引き続きう かがえるが、この数年はやや「デート派」が 増加している。  「第一志望の会社に入れたか」という質問 に対して、「入れた」という回答は、平成24年


度の60.9%から25年度は52.0%と大幅に 減少して過去最低だったが、26年度は55.0%  とわずかに改善され、今年度も56.4%とわ ずかに増加した。  就職先の会社を選ぶ理由として、最も多か った回答は「自分の能力、個性が活かせるか ら」(30.9%)。以下「仕事が面白いから」 (19.2%)、「技術が覚えられるから」(12.3%) の順だった。  平成以降、「会社の将来性」と入れ替わる ように増えた「仕事が面白いから」はこの数 年低下が続いている。  就労意識について16の質問をあげ、「そう 思う」から「そう思わない」まで4段階で聞 いたところ、肯定的な回答(「そう思う」と 「ややそう思う」の合計)の比率は下表のよ うな順になった。総じて、ポジティブないし 積極的な態度が上位を占め、ネガティブない し消極的な態度が下位を占めた。  なお、今年度から新しい項目として追加さ れた「ワーク・ライフ・バランスに積極的に 取り組む職場で働きたい」は89.8%だった。  また、昨年度追加の「できれば地元(自宅 から通える所)で働きたい」は64.8%から 65.0%と微増だったのに対し、「海外の勤務 があれば行ってみたい」は46.3%から43.7% に減少した。  一般的な生活価値観について16の質問を あげ、「そう思う」「ややそう思う」の合計を 順位づけると、積極性を示す項目が上位を占 め、消極性を示す項目が下位を占めた。  1位となったのは「人間関係では、先輩と 後輩など上下のけじめをつけることは大切な ことだ」(88.5%)で、以下「将来の幸福のた めに、今は我慢が必要だ」(84.6%)、「他人 にはどう思われようとも、自分らしく生きた い」(81.4%)、「明るい気持ちで積極的に行 動すれば、たいていのことは達成できる」 (80.8%)、「自分はいい時代に生まれたと思 う」(77.3%)などとなった。  対人関係について、1位と なったのは「浅く広くより一 人の友人との深い付き合いを 大事にする」(79.3%)で、 以下「相手とは意見が違って も、その場ではあまり反論し ない」(62.3%)、「友人といる より、一人でいるほうが落ち 着く」(51.9%)となった。


 若手の社員が最近、職場でたびたび 問題行動を起こすので、退職を勧めよ うと考えています。  トラブルに発展しないよう、できれ ば解雇は避けたいのですが、退職を勧 めたことが問題とならないようにする ためには、どのようなことに注意すれ ばよいでしょうか?  退職勧奨とは、使用者側から労働者に対し て退職を促す行為ですが、労働者がこれに応 じるかどうかは自由な意思に基づきます。し たがって、本人に辞める意思がなく、合意が 得られないからといって一方的に退職させる ことは、解雇にあたります。  退職勧奨の段階であれば、解雇の場合と異 なり、解雇手続き(解雇予告など)は必要な く、解雇権の濫用といった問題にもなりませ んが、解雇であればこうした責任やリスクを 負うことにもなります。  退職勧奨であってもトラブルに発展するケ ースはあります。単に勧奨だからといっても、 強引に行ったり、執拗に退職を迫ったりする と、退職を強要したことになります。  強要によって労働者が退職の意思表示をし たとしても、民法(第96条)に基づいて、強 迫による意思表示だとして、勧奨を受けた労 働者が後に退職の意思を取り消すことができ ます。  ケースにもよりますが、懲戒解雇事由にも 相当するような悪質な問題行為があった場合 を除き、勧奨に応じない場合に解雇などをほ のめかすことや、勧奨が長時間に及んだり、 複数の人間で取り囲んで行うことは、労働者 にとっては相当な心理的圧迫になることもあ りますので、強迫行為があったとされ、退職 の意思を取り消されることもあるでしょう。  労働者が納得するようにうまく退職勧奨を 行うには、まずは本人の立場で考えることが 重要だと言えます。  解雇ではなくとも、退職しなければならな い状況が本人にとって思いがけないことであ れば、失業後の生活や自身のキャリアにも大き く影響するので、不安に陥ることになります。  そんな状況で相手に対する何の配慮もなく 退職勧奨をすれば、感情的になり、トラブル につながることもあります。退職を勧めるこ とになった理由や経緯を丁寧に説明すること は勿論ですが、相手を尊重して誠意を持って 対応することが求められます。  また、相手の将来のことも踏まえて、これ からどのようにキャリアを積んでいけばよい か、再就職の支援や失業者に対する公的な支 援なども含めて、大きな不安に陥らないよう、 相談があれば親身になって受けることも必要 でしょう。そして、結論を急がず、十分に考 えがまとまるだけの時間的な猶予を与えてお くことや、自分の意思で結論を導くことがで きるような雰囲気を作ることも重要です。  こうしたことで、冷静になって自分なりに 判断し、最終的には自分の意思で退職するこ とを決断したのであれば、トラブルになるこ とはおそらくないでしょう。